在庫管理術
棚卸資産とは?意味・分類・評価方法をわかりやすく解説
「棚卸」という言葉には、2つの意味が混在しています。ひとつは「実際に商品や在庫の数を数える作業」、もうひとつは「その結果を会計上の資産として扱う『棚卸資産』という概念」です。
本記事では、経理・会計の観点から「棚卸資産」という資産概念そのものを、意味・分類・評価方法・回転率まで一つずつ解説します。実地棚卸のやり方や差異対策など「作業としての棚卸」について知りたい方は、以下もあわせてご覧ください。
電子秤で効率化する棚卸と在庫管理|種類・機能・事例
実地棚卸・帳簿棚卸のやり方、棚卸差異が起きる原因と対策、IoTを使った効率化まで。「棚卸という作業」について知りたい方はこちらで詳しく解説しています。
棚卸資産とは?わかりやすく解説

棚卸資産とは、企業が販売や製造のために保有している在庫全般を指す会計上の資産科目です。貸借対照表(B/S)上は「流動資産」に分類され、決算のたびに実地棚卸や帳簿上の記録をもとに金額を確定させます。
貸借対照表は
- 左側(資産)=調達した資金の運用内容
- 右側(負債・純資産)=資金の調達源泉
が示されていて、左右が必ず同じ金額になるような仕組みになっていることから、「バランスシート(B/S)」と呼ばれます。決算日時点の財政状態を表す書類で、ある一定の時点における企業の財産や負債の状況を示します。
棚卸資産は具体的には、店舗に並んでいる商品、工場にある原材料、製造途中の仕掛品などすべてが含まれます。「まだ売れていない・使われていないモノ」を、会計上ひとまとめにした呼び方だとイメージすると理解しやすくなります。
棚卸資産の分類・種類
棚卸資産は、企業の事業形態によって次のように分類されます。
- 商品:仕入れてそのまま販売する完成品(小売業・卸売業など)
- 製品:自社で製造し販売する完成品(製造業)
- 半製品:製造工程の一部が完了し、そのまま販売も可能な状態のもの
- 仕掛品:製造途中でまだ完成していないもの
- 原材料:製品を作るために仕入れた素材
- 貯蔵品:消耗品や梱包資材など、直接販売はしないが保有している物品
自社がどの分類に該当する在庫を持っているかによって、決算書での表示科目や評価の考え方が変わってきます。とくに製造業では「原材料」「仕掛品」「製品」の3段階で在庫が発生するため、どの段階の在庫かを区別して管理することが重要です。
棚卸資産を貸借対照表に計上する方法
棚卸資産を貸借対照表に計上するために必要なのが棚卸高です。棚卸高とは、棚卸資産(在庫)として残った製品や商品を貸借対照表に計上し、売上原価の算出から外して、翌期へと繰り越す棚卸資産(在庫)の総額です。棚卸高の求め方は、以下の通りです。
棚卸高 = 棚卸資産の数 × 棚卸資産の単価
棚卸資産の数を確定するために行うのが実地棚卸であり、価値を確定する作業が棚卸資産の評価となります。
計上のタイミングでよくある疑問には、「期首棚卸高」と「期末棚卸高」の違いがあります。期首棚卸高は会計期間の始まりに保有していた在庫の金額、期末棚卸高は会計期間の終わりに保有している在庫の金額を指し、この差分が売上原価の計算に影響します。
より詳しい仕訳の流れは「期首棚卸高とは」で解説しています。
棚卸資産の評価方法(会計処理・仕訳)【原価法・低価法・取得金額の評価方法】

棚卸の評価方法には、大きく分けて「原価法」と「低価法」があります。
原価法は、取得したときの原価をそのまま資産価値として計上する方法です。原価法の中にもさらに、個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法など複数の算出方法があり、税務署への届出によってどの方法を採用するかを選択します(届出をしない場合は最終仕入原価法が法定評価方法として適用されます)。
低価法は、原価と時価(正味売却価額)を比較し、いずれか低い方の金額で評価する方法です。棚卸資産の市場価値が下落した場合に、その下落分を損失として反映できるため、より実態に即した資産評価が可能になります。
| 評価方法 | 特徴 |
|---|---|
| 原価法 | 取得原価のまま評価。シンプルだが時価下落を反映しない |
| 低価法 | 原価と時価を比較し低い方を採用。実態に即した評価が可能 |
どちらの方法を選ぶかは、税務署への届出(棚卸資産の評価方法の届出書)によって決まります。届出をしていない場合は法定評価方法が自動的に適用されるため、自社がどの評価方法を採用しているか、経理担当者は必ず確認しておく必要があります。
棚卸資産の評価損とは【棚卸資産評価損の計上】
棚卸資産評価損とは、時価が取得原価を下回った場合に、その差額を損失として計上する会計処理です。低価法を採用している場合に発生しやすく、商品の陳腐化や市場価格の下落が主な原因となります。
評価損とよく混同される概念に「棚卸減耗損」があります。評価損が「価格の下落」による損失であるのに対し、棚卸減耗損は「数量の減少(紛失・盗難・破損など)」による損失です。どちらも棚卸資産の価値が目減りする点は共通していますが、原因が「価格」か「数量」かで区別されます。
また、実際に販売できずに廃棄・処分することになった場合の損失(棚卸ロス)についても、評価損とは異なる整理が必要です。
株式会社エスマット
代表取締役 林 英俊
「棚卸資産」は、眠っているだけで金利を生む
多くの現場が抱える「安心在庫」の正体は、経営の教科書に書かれた立派な「安全在庫」とは似て非なるものです。欠品の恐れから、必要な量の3割から5割も余分な在庫を抱え込む——これが、私たちがデータで見てきた現場の実態でした。
支援したお茶工場では、台湾などから輸入する茶葉の在庫金額が約1.2億円にのぼっていました。理由を尋ねても「足りなくなったら大変だから」という不安と勘が答えのすべて。しかしこの安心の裏で、会社は静かに損をし続けています。1.2億円の在庫とは、同額の運転資金を借り入れているということ。眠る在庫にも毎月金利が発生し、さらに賞味期限が近づけば安売りや廃棄で利益はさらに削られます。
SmartMatCloudの導入で実際の在庫消費ペースと残量を可視化したところ、現場は過剰な発注をする必要がなくなりました。一年後、1.2億円あった在庫は5000万円と半分以下に圧縮され、金利負担と廃棄ロスが減少し、会社の利益率は8%飛躍。棚卸資産は、会計上はただの「資産科目」に見えるかもしれませんが、実態を可視化すれば、莫大な現金に変わるのを待つ宝の山でもあるのです。
出典:書籍『日本の現場力が輝く、人中心のDX』第2章 p.38〜p.39
棚卸資産「回転率」の計算方法と目安
棚卸資産回転率とは、保有している在庫が一定期間でどれだけ効率的に販売されているかを示す指標です。数値が高いほど在庫の消化効率がよく、逆に低いほど在庫が滞留していることを意味します。
「回転率」の計算式
棚卸資産回転率(回)= 売上原価 ÷ 棚卸資産(期首・期末の平均)
※ 売上高を使って計算する簡易版や、より実態に近い数値を求める場合は売上原価を使う方法があります。
業種別の棚卸「回転率」の目安
棚卸資産回転率の適正水準は業種によって大きく異なります。一般的な傾向として、在庫をほとんど持たない運輸業・郵便業や宿泊・飲食サービス業では回転率が高くなりやすく、逆に不動産業・物品賃貸業や製造業のように単価の高い在庫を長期間保有する業種では回転率が低くなる傾向があります。
自社の回転率が業種平均より大きく外れている場合は、在庫過多(回転率が低すぎる)や欠品リスク(回転率が高すぎる)の可能性があるため、他の指標と合わせて確認することが推奨されます。
| 業種 | 回転率(回) |
|---|---|
| 全産業平均 | 11.87 |
| 建設業 | 11.82 |
| 製造業 | 7.60 |
| 情報通信業 | 35.41 |
| 運輸業,郵便業 | 147.15 |
| 卸売業 | 16.26 |
| 小売業 | 14.65 |
| 不動産業,物品賃貸業 | 3.38 |
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 41.31 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 64.17 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 78.74 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 49.86 |
※出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査」令和7年確報(令和6年度決算実績)の産業大分類別「棚卸資産」「売上高」(法人企業合計・全規模計)を基に自社算出。売上高ベースの簡易計算であり、売上原価ベースで計算した場合は数値が異なる点に注意。
棚卸資産「回転期間」の計算方法と目安
棚卸資産回転率とは、保有している在庫が一定期間でどれだけ効率的に販売されているかを示す指標です。数値が高いほど在庫の消化効率がよく、逆に低いほど在庫が滞留していることを意味します。
「回転期間」の計算式
棚卸資産回転期間(月)= 棚卸資産(期首・期末の平均)÷ 月間売上原価
※ 売上高を使って計算する簡易版や、より実態に近い数値を求める場合は売上原価を使う方法があります。
業種別の棚卸「回転期間」の目安
回転期間についても、回転率と同様に業種差が大きく現れます。在庫の保有期間が短い業種(飲食・小売の一部など)では回転期間が短く、逆に在庫を長期間持つ業種(不動産・物品賃貸業など)では回転期間が長くなる傾向にあります。
回転率が業種平均より大きく外れている場合は、在庫過多(回転率が低すぎる)や欠品リスク(回転率が高すぎる)の可能性があるため、他の指標と合わせて確認することが推奨されます。
| 業種 | 回転期間(月) | 回転期間(日) |
|---|---|---|
| 全産業平均 | 1.01 | 30.7 |
| 建設業 | 1.01 | 30.9 |
| 製造業 | 1.58 | 48.0 |
| 情報通信業 | 0.34 | 10.3 |
| 運輸業,郵便業 | 0.08 | 2.5 |
| 卸売業 | 0.74 | 22.4 |
| 小売業 | 0.82 | 24.9 |
| 不動産業,物品賃貸業 | 3.55 | 108.0 |
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 0.29 | 8.8 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 0.19 | 5.7 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 0.15 | 4.6 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 0.24 | 7.3 |
※出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査」令和7年確報(令和6年度決算実績)を基に算出した(売上高ベースの簡易計算)。上表の「回転率」表と同一の一次データから算出し、両表は表裏関係にある。
棚卸資産に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 棚卸資産とは何ですか?どの勘定科目に分類されますか?
棚卸資産とは、販売や製造を目的として保有する商品・製品・原材料・仕掛品などの総称です。貸借対照表では流動資産に分類され、一定期間内に販売・消費されることを前提とした資産として扱われます。現金化される前段階の資産である点が特徴です。
Q2. 棚卸資産と在庫の違いは何ですか?
A. 在庫は現場や管理上の概念で、今あるモノを指す言葉、棚卸資産は会計上の正式な資産区分です。すべての在庫が棚卸資産になるわけではなく、私的利用品や評価対象外の物品は含まれません。会計上は評価・計上ルールに従って棚卸資産として処理します。
Q3. 棚卸資産が増えると利益やキャッシュフローはどうなりますか?
棚卸資産が増えると、原価が繰り延べられるため一時的に利益が増えることがあります。しかし現金は支出済みのため、キャッシュフローは悪化します。過剰な棚卸資産は資金繰り悪化や評価損のリスクにつながるため、量と回転率の管理が重要です。
Q4. 帳簿上の在庫数と実際の在庫数が合わないのはなぜですか?
A. 帳簿棚卸(記録上の数値)と実地棚卸(現物を数えた数値)にズレが生じることを「棚卸差異」と呼びます。紛失・盗難・記録ミスなどが主な原因です。
棚棚卸差異【棚卸はなぜ合わない?誤差の原因と対策方法とは】
棚卸差異の基本的な考え方と、発生原因・対策方法についてわかりやすく解説しています。
棚卸資産をIoT重量計で効率的に管理!スマートマットクラウド

棚卸資産の評価や回転率の計算は、その前提となる「正確な在庫数量の把握」があってはじめて意味を持ちます。実地棚卸のたびに数え間違いや記録漏れが発生していては、評価方法をどれだけ精緻にしても、算出される棚卸資産の金額自体の信頼性が揺らいでしまいます。
現場のあらゆるモノをIoTで見える化し、発注を自動化するDXソリューション「スマートマットクラウド」を使えば、この「正確な在庫数量の把握」を簡単に自動化できます。スマートマットの上に管理したいモノを載せるだけで設置が完了。あとはマットが自動でモノの在庫を検知し、クラウド上でデータを管理、適切なタイミングで自動発注してくれます。
- さまざまな自動発注に対応:お客様の発注先に合わせた文面でメール・FAXの送信が可能です
- 在庫圧縮を促進:推移を把握できるグラフで適切な在庫量を判断し、在庫圧縮を促進します
- 置く場所を選びません:スマートマットはサイズ展開豊富。ケーブルレスで、冷蔵庫・冷凍庫利用も可能です
- API・CSVでのシステム連携実績も多数:自社システムや他社システムと連携を行い、より在庫管理効率UPを実現します
日々の在庫数量が自動で正確に記録されていれば、決算時の実地棚卸の負担が減るだけでなく、棚卸資産「回転率」・「回転期間」の算出に使う基礎データそのものの精度も上がります。
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専門家コラムを書いた人

株式会社エスマット代表取締役 兼 製造DX協会代表理事
林 英俊
京都大学大学院を修了後、ローランドベルガーに入社し、戦略コンサルタントとして製造業を中心にコンサル業務に従事。その後、Amazon Japanに入社し、新規事業立ち上げ・プロダクトマネジメントを経て、2014年にエスマット創業。代表として経営全般を舵取りしつつ、事業立ち上げなどグロース中心に実務も担う。製造DX協会の代表理事として、業界レベルのDX・IoT・AI関連の発信も従事。三重大学リカレント教育の講師も担う。 初の著作「日本の現場力が輝く、人中心のDX」を2026年上梓。














