在庫管理術
在庫とは何か|お金として捉える基礎と適正在庫・判断基準
在庫とは、単に倉庫や棚に置かれている「モノ」ではありません。
将来、生産や売上を通じて現金に変わることを前提とした「資産」です。
しかし実際の現場では、「念のため多めに持つ」「足りないと困るから置いておく」といった判断が積み重なり、在庫が増えすぎているケースも少なくありません。その結果、気づかないうちに資金を寝かせ、管理工数や廃棄ロスを生むムダな在庫、いわゆる罪庫になってしまうことがあります。
本記事では、在庫の基本的な意味や種類を整理したうえで、在庫を経営数値としてどう捉えるべきか、どこから管理を見直すべきかを、基本からわかりやすく解説します。
ドンブリ勘定から脱却し、在庫を見える化するための考え方を持ち帰ってください。
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在庫とは何か?モノではなくお金として捉える
在庫の定義は販売目的で保有する資産。しかし実務上は現金が形を変えて眠っている状態と捉え、滞留リスクを意識することが管理の第一歩になります。
「在庫」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるでしょうか? 倉庫に積まれた段ボールの山でしょうか。
JIS(日本産業規格)によれば、在庫は以下のように定義されています。
「経済的価値をもつ未利用の資源。原材料,部品,仕掛品,製品など。」
出典: JIS Z 0111 物流用語 - 日本産業標準調査会
会計上は在庫は棚卸資産と呼ばれ、貸借対照表(B/S)の資産の部に計上されます。
つまり在庫は会社のお金そのものなのです。
在庫の定義と分類(原材料・仕掛品・製品)
業種によって呼び方は異なりますが、在庫は大きく以下の3つに分類されます。
- 原材料・部品:製造のために仕入れた素材。
- 仕掛品(しかかりひん):製造途中の未完成品。
- 製品・商品:販売可能な完成品。
これらを正確に区別して管理することが、原価計算や利益管理の出発点となります。

なぜ「在庫=罪庫」と言われるのか?
「在庫は罪庫」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。これは、過剰な在庫が経営に与える以下のリスクを指しています。
- 保管コストの増大:倉庫代、光熱費、管理の人件費がかさむ。
- 品質劣化と陳腐化:長期間保管することで価値が下がる。
- キャッシュフローの悪化:仕入れ代金を支払ったのに、現金として回収できていない状態が続く。
一方で、在庫は持たなさすぎても売上を生まないという側面があります。
在庫を極端に削減すると、突発的な注文や生産計画の変動に対応できず、結果として売上機会を逃すリスクが高まります。
そのため在庫管理では、供給の安定性とコストの両立を図る適正な在庫水準を保つことが重要になります。

在庫を管理する目的|適正在庫が利益を生むメカニズム
在庫管理の究極の目的は、帳簿を合わせることではありません。利益を最大化することにあります。そのためには、機会損失と過剰在庫のコスト合計が最小になる適正在庫の概念を理解する必要があります。
相反する2つのコスト|機会損失 vs 在庫維持費
適正在庫とは、相反する2つのコストのバランスが取れたポイントを指します。
- 機会損失コスト: 在庫が足りずに商品を売れなかったことによる損失(欠品リスク)。
- 在庫維持コスト: 在庫を持ちすぎることで発生する保管費や金利負担(過剰在庫リスク)。
在庫を減らせば維持費は下がりますが、欠品による機会損失は増えます。逆に、在庫を増やせば欠品は減りますが、維持費は跳ね上がります。この2つのコストの合計が最も低くなる点が、あなたの会社にとっての適正在庫です。
キャッシュフロー経営との関係
「勘定合って銭足らず」という言葉があります。
これは、帳簿上は黒字であっても、手元の現金が不足し、資金繰りが立ち行かなくなる状態、いわゆる黒字倒産を指す言葉です。
このような事態を招く要因の一つが、過剰な在庫の保有です。
在庫は、販売され代金が回収されるまでは、現金が形を変えて眠っている状態にすぎません。
在庫管理を適正化し、商品がスムーズに回転する状態をつくることは、眠っているお金を回収し、企業活動の血液である現金に戻すことそのものです。在庫の持ち方は、現場の効率だけでなく、資金繰りや経営の安定性にも直結します。

現場で使える在庫分析手法|在庫回転率とABC分析【計算式付き】
このパートでは、在庫の現状を数字で把握するための代表的な2つの分析手法を解説します。在庫回転率で全体の健康状態を確認し、ABC分析でどの商品を重点的に管理すべきかを見極めます。
まずは在庫の現状を数字で把握することが、改善の第一歩です。
①在庫回転率
在庫回転率とは、一定期間に在庫が何回入れ替わり、売上として現金化されたかを示す指標です。数値が高いほど、在庫が効率よく動いている状態といえます。
【計算式】※金額ベース
在庫回転率(回)= 売上原価 ÷ 平均在庫金額
※ 平均在庫金額は、(期首在庫+期末在庫)÷ 2 で簡易的に算出できます。
また在庫が何日で現金化されているかを示す在庫回転期間も、あわせて確認しましょう。
在庫回転期間(日)= 365日 ÷ 在庫回転率
例:在庫回転率が12回の場合、約30日で在庫が現金に変わっていることになります。
💡専門家の視点からのワンポイントアドバイス
在庫回転率は月次でグラフ化し推移を追ってください。
年1回、決算時だけ回転率を見るのは、過去の結果を振り返っているにすぎません。
月次で推移をグラフ化することで、「今月は急に回転が落ちた」「特定の商品が滞留し始めた」といった異常に早く気づき、手遅れになる前に対策を打てるようになります。
②ABC分析
すべての在庫を同じ熱量で管理するのではなくABC分析を使い、管理すべき在庫の優先順位をつけましょう。
ABC分析は、「売上の約8割は、全品目の約2割で生み出されている」というパレートの法則に基づく分析手法です。
- Aランク(重要管理品):売上累積構成比 0〜70%
主力商品。欠品が直接売上に影響するため、在庫精度を厳密に管理し、定期的な発注を行います。 - Bランク(中程度管理品):売上累積構成比 70〜90%
AとCの中間。定期的に状況を見直し、必要に応じて管理方法を調整します。 -
Cランク(簡易管理品):売上累積構成比 90〜100%
動きの遅い商品や補充品。過剰在庫になりやすいため、「必要になったら発注する」など、管理工数を抑える運用が有効です。

エクセル管理 vs システム導入|移行の判断基準チェックリスト
このパートでは、在庫管理をエクセルで続けるべきか、それともシステム導入を検討すべきかを判断するための基準を整理します。
エクセル在庫管理は柔軟に運用ができ導入コストがかかりませんが、規模が大きくなるにつれて限界も見えてきます。業務量や管理負荷といった客観的な視点からシステム管理に移行するタイミングを判断できるようにしましょう。
エクセル管理のメリットと限界
エクセル(Excel)による在庫管理は、導入コストがかからず、自社の運用に合わせて柔軟に設計できる点が最大のメリットです。
立ち上げ期や、品目数・出荷件数が少ない段階では、十分に実用的な管理手段といえるでしょう。一方で事業が拡大し、管理対象が増えてくると、次のような限界が顕在化します。
-
リアルタイム性の欠如
入出庫のたびに手入力が必要なため、最新の在庫数を即座に把握できません。 -
同時編集によるトラブル
複数人で操作すると、更新できない、またはデータが上書きされるリスクがあります。 -
属人化の進行
複雑な関数やマクロを組んだ担当者が不在になると、修正や改善ができなくなります。
これらは単なる不便さにとどまらず、欠品・過剰在庫・在庫差異といった経営リスクにつながる問題です。
💡専門家の視点からのワンポイントアドバイス
エクセルで管理する場合は、「セルのロック」と「入力規則」を必ず設定してください。過去に、担当者が誤って計算式の入ったセルを上書きしてしまい、帳簿上の在庫数と実在庫が大きく乖離したケースでは原因の特定と修正に2日を要しました。
エクセルは便利な反面、ヒューマンエラーを前提とした安全設計が弱い点を理解して使う必要があります。
【独自】システム導入へ踏み切る3つの定量的サイン
では、いつWMSや在庫管理ソフトに移行すべきでしょうか。コンサルティング経験から導き出した、検討を開始すべき3つの閾値を独自にまとめました。
エクセル管理からシステム導入を検討する判断基準
| 判断項目 | エクセル管理で耐えられる目安 | システム導入を検討すべき閾値 |
|---|---|---|
| SKU数(品目数) | 〜300点 | 500点以上 |
| 1日あたり出庫件数 | 〜30件 | 50件以上 |
| 在庫管理の作業人数 | 1〜2名 | 3名以上 |
これらの一つでも超えると、エクセルでの管理工数が限界に達し、ミスによる損失がシステム導入コストを上回り始めます。特に作業人数「3名以上」はポイントで、情報共有のミスが頻発し始めます。
エクセルでの管理に限界を感じているなら
在庫管理ソフトの選び方とおすすめシステム比較の記事を読む>>
明日からできる現場改善|2Sとロケーション管理
システムを導入する前に、必ず取り組むべきなのが、現場の整理・整頓とロケーション管理の徹底です。
モノの置き場所や状態が曖昧なままでは、どれだけ高機能なシステムを入れても、
入力ミスや探し物が減らず、期待した効果は得られません。
まずはアナログな現場改善で、「誰が見ても、どこに何があるか分かる状態」を作ることから始めましょう。
ロケーション管理【固定ロケ vs フリーロケ】
モノの住所を決めることをロケーション管理と言います。これができていないと、探す時間がムダになるだけでなく、あるはずのモノが見つからずに誤発注する原因になります。
• 固定ロケーション: 「Aの商品は必ず1番の棚」と決める方法。管理が簡単で、初心者向けです。
• フリーロケーション: 空いている棚にランダムに入れる方法。保管効率は良いですが、システムによる管理が必須です。
まずは棚に商品名と品番を書いたラベルを貼ることから始めてください。
実地棚卸の精度を上げるコツ
帳簿在庫と実在庫を合わせる実地棚卸は、以下の3ステップで精度を高められます。
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事前準備: 棚卸当日に整理・整頓を始めず、前日までに数えやすい状態を作っておきます。
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現品票の活用: 棚ごとに現品票を貼り、担当者が記入します。
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ダブルチェック: 記入者とは別の人が回収・確認を行うか、2人1組で読み上げと記入を分担します。
在庫に関するよくある質問
Q1. 在庫は英語で何と言いますか?
在庫は英語で Inventory または Stock と言います。会計用語や資産としての在庫を指す場合は Inventory、店頭に並んでいる商品や備蓄を指す場合は Stock が使われることが一般的です。ビジネス文脈では Inventory のほうが正式な表現になります。
Q2. 実在庫と理論在庫が合わない主な原因は何ですか?
主な原因は、入出庫の入力漏れや入力ミス、誤出荷、盗難・紛失などです。これらは日々の記録ルールが曖昧なほど発生しやすくなります。対策としては、入出庫ルールの徹底に加え、定期的に一部の棚を数える循環棚卸を行うことが有効です。
Q3. 在庫の評価方法(先入先出法・総平均法)とは何ですか?
在庫の評価方法とは、払い出す在庫の単価をどのように計算するかを定めた会計上のルールです。代表的な方法に、先に仕入れた在庫から消費されたと仮定する先入先出法や、期中の平均単価を用いる総平均法があります。採用する方法によって利益額や税額が変わるため、原則として税務署への届出が必要です。
在庫が見えれば問題が解決できる!「スマートマットクラウド」

スマートマットクラウドは、計測デバイスに載せたものの重量をセンサーでリアルタイムに検知し、そのデータをクラウド上に送信する仕組みです。重量データをもとに、在庫の残量や使用量を自動的に算出。ネジなどの部品、副資材・仕掛品・粉モノや液体の原材料まで、日々の在庫確認や棚卸・発注まで自動化します。
在庫データが見えるとできること
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経験とカンからの脱却
在庫量をリアルタイムで把握できると、工程間の在庫の急減・急増といったいつもと違う変化にすぐ気づけます。ベテランの経験に頼っていた異常検知を、データで誰でも再現できる状態にすることで、品質トラブルや工程停止の予兆を早期に捉えられます。 -
発注・在庫の量を最適化
在庫データが時系列で蓄積されると、「どれが」「どれくらい」「どの期間」動いていないかが明確になります。人の目では見落としがちな不動在庫が数字として可視化されるため、未使用部材の発見や削減判断をスムーズに行えます。 -
欠品・過剰をなくし適切に配送
工程間在庫が見えることで、どこが詰まっているのか、どこにムダがあるのかが明確になります。ボトルネックの特定や補充ルールの見直しなど、在庫を起点にした改善が可能になり、現場の属人化を防ぎながら業務を標準化できます。 -
使用量から正しく法令遵守
使用量を正確に把握することで、劇毒物や規制物質の管理を属人的な記録に頼らず進められます。実際の使用量にもとづくデータ管理により、提出書類や報告内容の正確性を担保、帳簿上の数量と実在庫の乖離を抑え、監査や行政指導にも耐えうる管理体制を構築することが可能です。在庫データの見える化が、安全性と法令遵守を両立させるための基盤となります。















