在庫管理術
【無料テンプレート付き】安全在庫【計算式・求め方・メリット・最適な在庫管理まで徹底解説】

現代のビジネス環境において、効率的な在庫管理は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。特にサプライチェーンの不確実性が高まる昨今、適切な在庫水準を維持することは経営課題の一つです。
この記事では、在庫管理における核心概念である「安全在庫」について詳しく解説します。
安全在庫とは?
安全在庫の概要と算出の目的
安全在庫(英語:Safety stock)とは、需要の変動や供給の遅延など予測困難な事態に備えて、通常の在庫に加えて保持する予備の在庫を示します。
具体的には季節変動やトレンド、キャンペーンなど不確定な需要変動への考慮や正確な納品リードタイムの把握、在庫コストとのバランスを見て、最低限保有すべき在庫量を設定します。適切に安全在庫を設定することで、欠品リスクを軽減し、顧客満足度の向上や販売機会の損失を防ぐことができます。
安全在庫と適正在庫の違い
安全在庫に似た用語に「適正在庫」があります。一見、同じような用語ですが、実際は異なります。
安全在庫と適正在庫の違いはWEBサイト「在庫管理110番」のコラムにて、下記のようにわかりやすく解説されています。
安全在庫とは、欠品を防ぐための在庫の下限値です。
適正在庫とは、在庫数の下限だけではなく、上限も決めて過剰在庫も防ぐことです。
引用:在庫管理110番「安全在庫の計算方法と設定の注意点」 閲覧日2025年9月9日
安全在庫は、欠品を防ぐのが目的で設定され、在庫数の下限を決めるもの。一方、適正在庫は、企業が利益を出すことを目的とし、在庫の下限だけでなく上限も決めるのが特徴です。
JIS規格による正式な定義
より正確な言葉で理解するために、公的な定義にも触れておきましょう。
日本産業規格(JIS)に安全在庫は以下のように定義されています。
”需要変動または補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫”※
難しく聞こえるかもしれませんが、お客様からの注文が急に増えたり、発注した商品が届くのが遅れたりしても、欠品しないように備えておく在庫ということです。
※引用: 日本産業規格『JIS Z 8141:2001 生産管理用語』
安全在庫の計算方法・求め方
安全在庫の計算式
安全在庫は、計算で定量的に算出することができます。
まずは基本となる計算式を押さえておきましょう。
安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)
実際の業務で適切な在庫管理を行い、欠品リスクと保管コストのバランスを最適化するには、計算式の各要素を的確に理解し、取り扱うことが必要です。この式で使用される各要素について、詳細を以下に説明します。
安全係数
安全係数は安全在庫係数ともいい、欠品をどの程度まで許容できるかを数値化したものです。例えば100回の注文のうち5回までは欠品しても構わない場合、欠品許容率は5%で、安全係数は1.65になります。
●欠品許容率と安全係数の対応表
欠品許容率 | 安全係数 |
0.1% | 3.10 |
1.0% | 2.33 |
2.0% | 2.06 |
5.0% | 1.65 |
10.0% | 1.29 |
20.0% | 0.85 |
30.0% | 0.53 |
欠品を避けたい場合は、安全係数を高く設定します。一方で、安全係数を高くしすぎると在庫が増え保管コストが上がるため、コストとサービス水準のバランスを見極めることが重要です。
使用量の標準偏差
使用量の標準偏差とは、過去の需要のばらつきを示す指標です。需要の変動が小さいほど標準偏差は小さく、変動が大きいほど標準偏差も大きくなります。
つまり数値が大きいほど、需要の予測が難しくなり、より多くの安全在庫が必要になります。
標準偏差は、Excelで「=STDEV(範囲)」という関数を使えば、簡単に計算できます。 過去数か月〜1年分のデータを入力することで、需要のばらつきを定量的に把握できます。データを入力する期間は、季節性が反映される12か月以上が理想※です。
※参考:経済産業省『需給管理実践ガイドライン(製造業向け)』
ルートリードタイム・発注間隔
発注リードタイム
発注リードタイムは、発注してから実際に納品されるまでの期間を指します。安全在庫の計算では、このリードタイム中の需要変動を吸収するために、安全在庫量を算出します。
計算式に平方根(√)を用いるのは、リードタイムが長くなるほど不確実性は増すものの、増え方は日数に比例せず、統計的に√日数に比例するためです。例えばリードタイムが2倍になった場合でも、需要変動の幅は約1.4倍(√2)にとどまります。この統計的な特性を反映させるべく、計算式には平方根が用いられています。
発注間隔
発注間隔をリードタイムに加えることで、在庫がゼロになる前に次の補充が行われるタイミングを考慮できます。
つまり、発注リードタイム+発注間隔の合計は、補充までの全体リードタイムを意味します。
Excelで安全在庫を計算する4ステップ
安全在庫自動計算のテンプレートを活用
ここからは、「安全在庫 計算テンプレート」を使って、実際に手を動かしながら計算してみましょう。
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このテンプレートは出荷実績・計算シート・使い方の3つのシートで構成されています。
順に操作するだけで、出荷データの入力から安全在庫の算出まで完結します。
- 出荷実績シート:過去の出荷数を日付と共に入力すると平均値と標準偏差を自動計算
- 計算シート:安全係数やリードタイム、発注間隔を入力すると安全在庫が自動で算出
- 使い方シート:入力手順や関数の意味をまとめた簡易マニュアルを掲載
ステップ1:過去の出荷/使用実績データを入力する
テンプレートの「出荷実績」シートを開き、対象となる商品の過去の出荷数や生産での使用数)を、日付とともに入力します。最低でも30日分、可能であれば90日分以上のデータがあると、計算の精度が上がります。
データを入れると、標準偏差は自動で計算されるようになっています。
ステップ2:欠品許容率から安全係数を決める
次に「計算シート」を開きます。 先ほど解説した「欠品許容率と安全係数の対応表」を参考に、目指したいサービスレベルを決め、対応する安全係数を入力します。
「安全係数をいくつに設定すれば良いか分からない」という場合は、多くの企業で採用されている欠品許容率5%(安全係数1.65)から試してみることをお勧めします。
ステップ3:発注リードタイムと発注間隔を入力する
続いて、その商品の発注リードタイム(発注してから納品されるまでの平均日数)と、発注間隔(何日に一回発注するか)を入力します。
ステップ4:安全在庫数を確認する
全ての数値を入力すると、安全在庫数が計算されます。 例えば、結果が23個と出た場合は「常に最低で23個は在庫を保持しておくことで、急な需要の変動や納期の遅れがあっても、設定したサービスレベル(例: 95%)の確率で欠品を防げる」ということを意味しています。
テンプレートを使い安全在庫を計算し勘に頼った発注から脱却することが、データに基づいた在庫管理の第一歩になります。
計算だけで終わらせない!安全在庫を正しく運用する注意点
計算の元になるデータは定期的に見直す
安全在庫は一度計算したら終わりではありません。 季節の変動、市場のトレンド、競合の動きなど、商品の需要は常に変化しています。最低でも3ヶ月に一度、可能であれば毎月、計算の元となる出荷実績データを見直して安全在庫の数値を更新していくことが理想です。
関係者同士で合意形成をする
安全在庫の計算においては、製造部門や営業部門など関係者間で、どの程度の欠品率を許容するかというサービスレベルに関して共通認識を持ち、合意形成を図ることが極めて重要です。営業部門が掴んでいる顧客の動向や、製造部門の生産能力といった事業全体の状況を互いに理解することで在庫管理が真に機能します。
安全在庫に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 安全在庫と適正在庫の違いは?
A. 適正在庫とは欠品も過剰在庫もない、最も効率的な在庫状態全体を指します。安全在庫はその適正在庫を構成する要素の一つで、万が一の備えという役割を担っています。一般的に「適正在庫 = サイクル在庫 + 安全在庫」で構成されます。
Q2. 安全在庫と発注点の違いは?
A. 発注点とは在庫がいくつになったら発注をかけるかというタイミングを示す指標です。一方、安全在庫は最低限、保持しておくべき量を示す指標です。安全在庫は発注点を決めるための重要な要素となります。
Q3. 過去の在庫データが十分にない場合はどうすればいい?
A. 新商品などで十分な実績データがない場合は、類似商品のデータを参考にしたり、業界の平均的なサービスレベルから安全係数を設定したりするなどの方法があります。あくまで暫定的な数値のため重点管理が必須で、実績データが蓄積され次第速やかに見直すことが重要です。
Excelでの管理に限界を感じたら?安全在庫運用の次のステップ
Excelテンプレートを使用した安全在庫計算は、データに基づいた在庫管理の第一歩として非常に有効です。
一方で取り扱う品目が増えたり、複数の担当者で情報を共有したりするようになると、手作業でのExcel管理には限界が見えてくるかもしれません。
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入力ミスや更新漏れが起こりやすい
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ファイルが属人化してしまい、担当者が不在だと状況が分からない
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リアルタイムな在庫状況を把握できない
実際に当社のお客様からは「計算式で算出した安全在庫では過剰在庫気味になる」、「ジャストインタイムで在庫補充したい」といった声をいただいています。
こうした課題や要望が出てきたら、在庫管理システムの導入を検討するタイミングです。安全在庫や発注点の計算を自動化できるだけでなく、IoTによる在庫のリアルタイム計測を組み合わせて、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」補充する仕組みへと進化させることができます。
安全在庫の最適化をサポート!「スマートマットクラウド」
発注点と安全在庫の適切な管理は、理論的には明確でも、実務では常に正確な在庫数を把握することが最大の課題となります。特に多品種の商品を扱う企業では、日々の在庫カウントは膨大な労力を要し、人的ミスも発生しがちです。
こうした課題を解決するために、IoT技術を活用した「スマートマットクラウド」が注目を集めています。
スマートマットクラウドは、物理的なIoT重量センサとクラウド技術を組み合わせた在庫管理システムです。商品や資材の下にスマートマットを敷くと、重量変化をリアルタイムで検知し、自動的に在庫数を算出します。
- クラウドに即時反映:専用マットからデータが転送され、クラウド内で記録・管理
- 自動発注機能:設定した発注点に達すると、自動で発注処理を実行
- 在庫推移の可視化:グラフ表示により、在庫の適正化を促進
この革新的なシステムにより、従来の在庫管理における多くの課題が解決できます。人手による棚卸作業が不要になり、常に正確な在庫情報が得られるため、理想的な発注点と安全在庫の運用が可能になります。
置く場所を選びません
スマートマットはサイズ展開豊富。ケーブルレスで、冷蔵庫・冷凍庫利用も可能。
API・CSVでのシステム連携実績も多数
自社システムや他社システムと連携を行い、より在庫管理効率UPを実現します。
安全在庫の最適化に貢献したスマートマットクラウド導入事例
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