在庫管理術
理論在庫|理論在庫とは?実在庫と乖離しやすい理由と対策

在庫管理の現場では、「帳簿上では在庫があるはずなのに商品が見つからない」「棚卸のたびに数が大幅にズレる」といった 実在庫と帳簿上の数量合わないトラブルが後を絶ちません。例えばーー
棚卸で10%超の差異:月末の棚卸で理論在庫と実在庫が数百個単位で食い違い、原因調査に人手と時間を消耗
急な欠品で生産ライン停止:在庫データを信じていたら実在庫がゼロ。緊急調達コストが発生
こうした事態を防ぐには、帳簿上の理論在庫の仕組みと、倉庫内に存在する実在庫のギャップを正確に理解し、埋めることが不可欠です。
本記事では、理論在庫の定義と計算方法や実在庫と乖離が生まれる主な原因、乖離リスクを最小化する具体策を順に解説し、現場で今日から使える改善のヒントをお届けします。
理論在庫とは?
理論在庫の定義
理論在庫(英語:Theoretical Inventory)とは、理論在庫とは、商品の入荷、保管、出荷時に記録されたデータをもとに算出される在庫数です。予測やリードタイムなどの要素から算出される「理論上在庫」のことで、在庫管理の指標として用いられる概念です。
計算式を使い、一定期間における消費量やリードタイムを考えて算出されるため在庫の最適化を目指す上での指標として重宝されています。
理論在庫と帳簿在庫の違い
理論在庫は在庫理論にもとづく“理論的に導き出された最適在庫量”であり、企業が持つべき理想の在庫水準を示す有用な指標です。
一方、帳簿在庫は実際の入出庫データや棚卸結果を記録し、“公式記録としての在庫数”を管理する役割を担います。
いずれも在庫管理には欠かせない存在ですが、両者が食い違うと正確な意思決定が難しくなります。
現場での棚卸やデータ入力を正確に行いながら、需要予測やリードタイムの変動を見極め、理論在庫と帳簿在庫を適切に活用することが理想的な在庫管理体制を築くカギとなります。
理論在庫の計算方法
理論在庫の計算式
理論在庫とは、過去実績・販売計画・レシピ(製造業の場合)などから 「理論上あるべき数量」 を算出した在庫指標を指します。
実務では下式の発注点(Reorder Point)の計算式がよく使われます。
平均需要量 × リードタイム + 安全在庫
- 平均需要量:一定期間の需要を予測し、平均値をとる
- リードタイム:発注から納品までにかかる時間
- 安全在庫:予想外の需要変動やリードタイム遅延に対応するためのバッファ
この単純式だけでは精度が落ちるため、AI 需要予測や可変リードタイム補正を併用するケースが増えています。
理論在庫に依存した在庫管理の課題
理論在庫と実在庫の乖離
「実在庫」が実際に倉庫にある在庫数なのに対し、「理論在庫」はあくまで需要予測やリードタイムを基に導き出す「理論上在庫」となります。「理論在庫と実在庫」の差異から起こるリスクや、実際の運用で生じる課題を整理してみます。
理論上の在庫と実在庫が乖離する理由
需要予測や安全在庫の計算式を用いて割り出した「理論在庫」は、あくまでも“理想値”に基づく在庫量です。しかし、実際の在庫状況はリードタイムの遅延や需要の急増など想定外の要因によって変化しやすく、発注数やタイミングが理論値どおりに合わなくなることがあります。
理論在庫に依存した在庫管理は、欠品リスクを高めたり、逆に在庫を抱えすぎて保管コストを圧迫する事態を引き起こします。
場面 | ミスが起こりやすい状況 | 具体的なミス事例 |
---|---|---|
倉庫内作業時の紛失 | - ピッキングリストとロケーションが頻繁に変更される - 一時置き場(仮置きスペース)が混雑し、品番ラベルを貼り替えずに移動してしまう |
- AラインからBラインに台車で資材を移動中に途中で一時退避。別の作業者が同じ台車を使い、資材を誤って別ロケーションへ格納。棚卸まで発見されず10箱の差異発生 |
荷姿入り数の誤差 | - 同一品番でも入荷ロットごとに入数(1箱内の数量)が異なる - 輸入品で外装ラベルが多言語のため、入数を読み違えやすい |
- ケース表記「100PCS」を100箱と誤認し、実際は1箱100個入りだった。帳簿では 100 × 100 = 10,000 個登録、実在庫は 100 × 1 = 100 個で 9,900 個の大差異 |
倉庫内受け渡し時のミス | - ピッキング後に梱包担当へ口頭で数量伝達 - ハンディターミナルの電波が弱くリアルタイム更新されない |
- ピッキング担当が「150 個」と口頭で伝達 → 梱包担当が「50 個」と聞き違え、100 個が棚に戻らず行方不明。帳簿は 150 個出庫済み扱いのため差異 |
返品記帳時ミス | - 返品の状態検品が後回しになり、再販可否を決める前に帳簿へ一括登録 - システム側に「良品」「不良品」区分があるが入力必須でない |
- 返品 20 個のうち、破損 5 個を良品として登録。不良品は廃棄処理したため帳簿は +20、実在庫は +15 で差異発生 |
盗難 | - 外部作業員の出入りが多い共配倉庫 - 高単価・小型商材の保管エリアにカメラ死角がある |
- ハンディツール類(1 個数万円)が週末在庫確認時に 3 個不足。監視ログなし・ロケーション履歴なしで調査長期化。結果、理論在庫 30 個に対し実在庫 27 個 |
需要変動に柔軟に対応できない
在庫管理システムに入力するデータが誤っていたり、定期的な棚卸作業の頻度が少なかったりすると、在庫数の更新自体が追いつかずに理論値とのギャップが広がります。
たとえば、手動で入力する現場では数値の入力ミスが起こりやすく、月に一度しか棚卸をしないような場合には、その間の細かい出庫や入庫が記録されずに在庫数が大きくずれてしまうことも少なくありません。
在庫過多・在庫不足リスク
理論在庫に依存した管理は、誤った情報に基づく発注が重なることで、過度な在庫を抱えるリスクを増大させます。過剰在庫となれば保管料や廃棄コストがかさみ、経営を圧迫しかねません。
一方で、理論在庫上は十分確保できているはずが、実際には品切れというケースも起こり得ます。この場合、顧客への販売機会損失だけでなく、ブランドイメージの低下にもつながるため、最終的にはコスト増大や信頼の喪失という大きなダメージを招くリスクを抱えています。
理論在庫と実在庫の差異を解消する方法
棚卸の効率化と精度向上
棚卸のカウント時には 2 人 1 組でダブルチェックし、バーコードや RFIDを併用すると読み取りミスをほぼ排除できます。差異が見つかったらその場で原因ラベルを貼り、入庫・出庫・保管・システムのどこで食い違ったかを判定するルールを設けることで、調査に費やす時間を圧縮できます。
部門間連携の強化による在庫精度向上
在庫は物流部門だけでなく、営業や購買、生産計画とも連動しています。月次会議で販売予測を共有し、過剰な安全在庫を削減するだけでも差異は減少します。
在庫管理システムの導入
在庫管理システムを導入すると、入力の二重化や帳簿更新のタイムラグがなくなり、作業効率と在庫精度が同時に高まります。たとえば、ハンディ端末でスキャンと数量登録を同時に行えば、ピッキングから出荷登録までのリードタイムは大幅に短縮できます。誤出荷件数も大幅に減り、差異率は ±10 % から ±2 % 程度へ改善する事例が一般的です。
●主要効果:作業時間短縮・人為的ミス削減・差異率改善
実在庫管理の重要性
理論在庫だけでなく実在庫をリアルタイムで正確に把握できる仕組みがあれば、発注タイミングをより精密に見極められるため、在庫回転率の向上につながります。
たとえば理論在庫数のみを基準に発注する場合、実際の在庫状況を反映しきれず、需要が増えたタイミングを逃して品切れ・過剰在庫のリスクがあります。リアルタイムで把握した実在庫数をもとにすれば、在庫が過剰になる前に発注回数やロットサイズを調整でき、結果として回転率が上昇します。
結果的に在庫コストの削減が可能となり、管理負荷や棚卸時の煩雑さも軽減されるため、全体的な生産性向上が期待できます。
実在庫を見える化する!「スマートマットクラウド」
スマートマットクラウドとは?
「スマートマットクラウド」は、リアルタイムに実在庫を見える化する在庫管理システムです。マット状のセンサー機器を商品や資材の下に設置し、クラウドと連携することで重量の変化を常時モニタリングし、実際の在庫数を自動で集計・記録します。
従来の目視&手作業による在庫チェックや情報伝達の作業コストをかけることなく、最新の実在庫数を見える化します。
リアルタイム実在庫を測定
従来の棚卸では一定期間に一度しか在庫を把握できません。スマートマットクラウドを使えば“今どれだけあるか”をいつでも把握でき、在庫管理の精度と速度が飛躍的に向上します。
在庫差異の削減によるコスト削減
スマートマットの上に置いている商品の重量から自動測定するため、入力ミスや棚卸頻度の不足によるデータのズレを最小限に抑えられます。結果、無駄な在庫コストや棚卸差異の調整コストを削減することができます。
発注ミスを減らし、欠品や過剰在庫を防ぐ
常に最新の在庫数が把握できるため、「まだ在庫が十分あると思っていたら実は不足していた」という欠品リスクや、「見落としによる発注の重複で余剰在庫を抱える」リスクが減ります。販売機会を逃すことなく、保管コストも抑えられます。
作業効率向上・人的リソースの削減
手動での棚卸作業は時間と労力がかかり、人為的なミスを誘発しやすいのが難点です。スマートマットクラウドなら、日々の在庫把握作業や定期的な棚卸の回数を抑えられるため、スタッフはより付加価値の高い業務に時間を割くことができます。
データを活用した需要予測の精度向上
自動収集された在庫データは、販売動向や需要予測を分析するうえでも大きな武器になります。実在庫の変動から、需要が急増する時期や商品ごとの売れ行きパターンを精緻に読み取り、発注計画の精度を高めらることができます。在庫データは最適な在庫水準の維持に役立つだけでなく、経営判断の材料に活用できます。
理論在庫と実在庫の差異を解消したスマートマットクラウド導入事例
スマートマットクラウドの機能を活用して、理論在庫と実在庫の差異を解消した事例をご紹介します。
特許機器株式会社様の事例(製造業)
●対象副資材:センサー・ケーブル・金属加工品・基板など製品構成部材
●Before:実在庫の出入りを入出庫表へ記録、その後、システム上で理論在庫も更新し、棚卸の際に実在庫と理論在庫を照らし合わせ管理していました。理論在庫数と実在庫数の合致率が低かったことが課題でした。棚卸で判明した差異は遡って原因を調査する必要があり、そこにも時間と労力がかかっていました。
●施策:在庫部品の中で重要部品にスマートマットを導入。
●After:現物をカウントしなくても容易に実在庫数の確認が可能になりました。理論在庫と実在庫数のズレの見える化し、原因特定がしやすくなりました。原因に対処していくことで、理論在庫と実在庫数の差異を軽減、在庫精度向上を実現できました。
在庫精度向上により棚卸資産の仕損費拡大の防止、誤計上が起因となった過剰発注による廃棄ロスも予防できるようになり、キャッシュフローが良化しました。
株式会社カナエ産業様の事例(製造業)
●対象副資材:工業用ゴム部品の製造に使用する材料バッチ
●Before:現場から緊急の材料オーダーや、顧客からの特急の注文が原因で実在庫と理論在庫の差異が発生し、生産計画の遅れのリスクがありました。担当者だけが在庫状況を把握し管理が行き届かず、発注ミスや発注漏れ、過剰在庫の課題が発生していました。
●施策:保管用の棚にスマートマットを設置。
●After:受注や生産指示があった時に、本社から遠隔で在庫を確認し、発注まで行なうことができるようになりました。在庫が一度に動いた場合は状況を検知し、イレギュラーの消費なのか、ミスなのか迅速に原因を確認できる体制になりました。
この記事を書いた人

スマートマットクラウド メディア編集部
スマートマットクラウド メディア編集部です。業務効率化や業務の課題解決などをわかりやすく解説します!
【スマートマットクラウドとは?】
スマートマットの上にモノを置き続け、重さで数を数えるIoTサービスです。
ネジなどの部品、副資材・仕掛品・粉モノや液体の原材料まで、日々の在庫確認や棚卸・発注まで自動化します。