在庫管理術
在庫回転率|計算式や業界別目安に基づき、回転率を上げる実践的手段とは?

在庫管理の現場で「毎月のエクセル入力や実地棚卸で残業が続く」「発注量の判断に自信が持てない」といった声は珍しくありません。
本稿は、「在庫回転率」を単なる数値計算から戦略指標へ昇華し、健全な経営を支援する実務ガイドです。在庫回転率を「計算して終わり」にせず、どのように指標を活かして在庫回転率を上げ、キャッシュフロー改善に結びつけるかを実践的に解説します。
さらに業種別の目安やエクセルにそのまま入力できる計算式を掲載。また指標活用で改革を成し遂げた企業事例を通じ、再現性の高い改善ステップを提示します。データ入力や棚卸の負担を最小化しつつ、発注判断を迅速かつ根拠あるものへ変える具体策を理解しましょう。
在庫回転率とは?【定義と目的】
在庫回転率の定義
在庫回転率とは、一定期間で在庫が何度入れ替わったかを示す指標で、JIS規定では「在庫回転率 = 一定期間の所要量※1 ÷ 平均在庫量」と定義されています。実務では、数量ベース・金額ベースの2方式が使用されます。
また在庫回転率は棚卸資産回転率、商品回転率とも呼ばれています。
※1:所要量はJIS用語であり、実務的には出庫数と同義として扱われています。
在庫回転率が高いほど、在庫が効率よく流動し、資本効率が良い状態とされます。仕入れから販売までのスピードを数値化することで、在庫がどれほど効率的に「お金」へ変わっているかを把握するのに役立ちます。
ただし、数値が極端に高すぎると、仕入不足・欠品による機会損失のリスクもあるため、適正地の設定が重要です。
在庫回転率を算出する目的
在庫回転率を算出する最終目標は、在庫がコントロールできているかチェックし、経営状態の是非を確認することです。そのため在庫回転率の把握は在庫管理担当者の他、調達・営業・財務・経営層にとっても重要で、また主に以下の4つの目的があります。
- 売れ筋 ・死に筋の特定
需要変動を迅速に捉え、品揃えを最適化 - 過剰/欠品リスクを可視化
在庫状況・在庫コントロールの健全性をチェック - 財務指標(ROA/ROIC)※2改善
経営状況・資本効率のモニタリング - 経営・調達・営業・現場の連携強化
経営状況の共有・意識統一化
※2:ROAとは総資産をどれだけ効率的に利益(当期純利益)へ転換できたかを示す指標。
ROICは、株主資本+有利子負債など投下資本に対し、税引後営業利益が何%回収できたかを示す指標。
在庫回転率で得られる成果と各部署のアクション
在庫回転率で得られる成果は数多くあります。共通 KPI として在庫回転率を運用し、成果をそれぞれの部門で活用することで、全社最適の経営判断が可能になります。加えて、現場・調達・財務を横断して収益力を底上げできます。
成果 | 現場・倉庫責任者 | 購買・資材調達 | 経営・財務 |
---|---|---|---|
在庫状況の見える化 | 棚卸工数を削減し、滞留・欠品をリアルタイム監視 | リードタイム短縮に向けた仕入れ先交渉材料を獲得 | B/Sの資産圧縮で資本効率を向上 |
コスト削減 | 保管スペース・作業工数を最小化 | 余剰在庫によるキャリーコストを抑制 | キャッシュ創出力が高まり投資余力が拡大 |
販売機会損失の防止 | 欠品アラートで生産・補充を先手管理 | 優先発注枠を確保し欠品リスクを低減 | 売上のボラティリティを抑え安定したCFを実現 |
顧客ニーズの把握 | SKUごとの動きを見てレイアウト・動線を改善 | 需要変動を即反映し発注頻度を最適化 | 需要予測の信頼性が上がり事業計画精度が向上 |
経営状態の健全化 | 作業負荷と在庫水準のバランスを最適化 | 資金拘束を抑え仕入コストを平準化 | ROA・ROICが改善し投資家への説明力が強化 |
在庫回転率の計算式【数量ベース・金額ベース】
在庫回転率の計算方法は、大きく分けて「数量ベース」と「金額ベース」の2種類があります。どちらを用いるか、在庫管理の目的や算出したい指標によって使い分けると効果的です。
数量ベースの在庫回転率は何を示すか
現場データ → KPI → アクションを直列化
在庫数や出庫数など“モノの動き”そのものに着目して算出する方法です。現場の実務的な動きとリンクしており、在庫管理や発注計画などと直結する特徴があります。
また現場 KPI として「○回転/月」を掲示すれば直感的に状況を読み取れるため、現場での迅速な意思決定・アクション実行につながります。
数量ベースの在庫回転率の計算方法
数量ベースの在庫回転率の計算方法は以下。
- 在庫回転率= 出庫数 ÷ 平均在庫数
また数量ベースでの在庫回転率の算出について、具体例をあげて説明します。
●具体例
期首在庫数:1,000個
期末在庫数:600個
期間中の出庫数:3,000個
まず平均在庫数を求めます。
平均在庫数 = (1,000個 + 600個) ÷ 2 = 800個
つぎに在庫回転率を算出します。
在庫回転率 = 3,000個 ÷ 800個 = 3.75回
この場合、一定期間内に在庫が約3.75回転したことになります。
金額ベースの在庫回転率は何を示すか
●会計データ → 資本効率 → 経営判断を迅速化
財務指標として、在庫に投下されている資金がどのくらい効率良く回っているかを把握し、資本効率(ROA/ROIC)の改善議論への展開を可能にする算出方式です。売上ではなく「売上原価」を用いることで、貸借対照表の在庫と損益計算書に用いる「売上原価」と同じ単位で捉えられるため、実質的な仕入れコストをもとに算出できます。
また、扱っている在庫数量が変わらなくても、在庫単価が値上がりすれば回転率が低下して「在庫が重くなった」ことを示します。そのため、インフレや原価高騰による運転資本の過大化リスクを早期に検知できます。
金額ベースの指標は金融機関の融資審査や投資家向けレポートでも一般的に用いられており、説得材料として汎用性が高いという特徴があります。この指標はERPの会計モジュールから売上原価と期首・期末在庫金額を取り込むだけで自動算出できるため、現場に追加入力の負荷をかけずに毎月の KPI として扱うことも可能です。
金額ベースの在庫回転率の計算方法
金額ベースでの在庫回転率の算出方法は以下。
- 在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
- 売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高
参考指標【在庫回転期間】
現場レベルで消費ペースを理解しやすくするために、在庫回転率とは別の指標である在庫回転期間を求めて、在庫の仕入れから販売までの速さを示す方法もあります。 在庫回転期間により、在庫の滞留状況を把握することが可能です。
- 在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ 売上原価
在庫回転率の適正値【業種別】
在庫回転率の適正値は企業ごと、業種ごとに異なるため、一律には語れません。商品特性によって在庫回転の速度は異なり、生鮮食品や消耗品を扱う業態ほど回転率が高く、ファッション・繊維製品など流行やサイズ在庫を抱える業態ほど低い傾向があります。
業種別に見る適正回転率の目安と背景
区分 | 主な業態・商材 | 代表値 回/年 |
背景と理由 |
---|---|---|---|
高回転型 | 飲食料品小売・食料品製造・プラスチック製品製造 | 15 〜 17 | 生鮮や日配品は賞味期限が短く毎日補充が必要。食品・日用品は需要が安定し、在庫を長期保有すると値下げ圧力がかかるため迅速な入替えが求められる。 |
中回転型 | 部品・電子部品など一般製造、総合スーパー | 8 〜 13 | 部材の標準化と JIT 生産で一定の回転を維持する一方、部品点数の多さやサプライチェーン遅延が安全在庫を押し上げやすい。 |
低回転型 | 繊維工業、衣料・家具小売、産業機械 | 3 〜 7 | 高単価かつ多品種・長リードタイムの商材が中心。流行変動や受注生産比率の高さから需要予測が難しく、回転は低下しがち。 |
*出典:経済産業省 「商工業実態基本調査」4.中小企業の商品(製品)回転率(最終更新 2007 年 10 月 1 日 公表値)をもとに作成。直近の更新がないため、あくまで目安としてとどめ、実務では自社の実績や業界ベンチマークと比較し、随時見直すことを推奨します。
自社の在庫回転率のチェックポイント
平均値から乖離する具体的原因とは?
「在庫回転率は高ければ良い」という単純なものではなく、ビジネスの特性や商品特性、顧客需要の変動などを考慮した最適解を目指すことが重要です。自社の回転率が業界平均に近いかどうかをひとつの目安としながら、継続的に数値を検証し、改善策を実行し続けることが安定した経営につながります。
●回転率が高すぎる(在庫不足型)
JIT を過度に進めて安全在庫を限界まで削った結果、欠品が常態化し、緊急調達や特急輸送でコストが跳ね上がります。
対策として「発注点が過小設定になっていないか」、「サプライヤの実績リードタイムが延びていないか」 を確認し、欠品コストと在庫コストのバランスを再計算します。
●回転率が低すぎる(在庫過多型)
MOQやコンテナ単位の仕入れで一度に大量入庫したり、値上げ前に駆け込み発注した在庫が残庫化している可能性があります。
安全在庫日数とロットサイズが最新需要に合っているかを検証し、余分なロットを分納できないかサプライヤと交渉すると効果的です。
●季節偏在が大きい
繁忙期に品切れ、閑散期に山積みという季節品の失敗パターンに陥っている可能性があります。需要予測が年間平均で平滑化され、季節係数が反映されていないことが原因です。
対策として週次・月次の予測モデルに季節指数を組み込み、繁忙期前倒し発注と閑散期の在庫圧縮をルール化すると改善できます。
●原価高騰による見かけの悪化
数量ベースでは健全なのに、原材料高騰で在庫評価額が膨張し、金額ベースの回転率だけが急低下して見えるケースです。金額ベース・数量ベース指標を併用し「本当の動き」を見抜き、在庫評価法の見直しや価格転嫁策を検討することが重要です。
在庫回転率を上げる改善ステップ
在庫回転率を高めることは、在庫管理担当者にとって大きな課題の一つです。以下のポイントを押さえることで、在庫の滞留リスクを下げ、企業の利益改善に繋げることができます。
Step1.データに基づく目標設定
過去データや業界平均値を参考に目標回転率を設定
まずは自社の商品カテゴリーや過去の実績、同業他社の水準などをもとに、達成可能かつ挑戦的な数値目標を設定します。商品ごとに目標在庫回転率を決めることで、売れ筋と死に筋を正確に把握し、優先すべき対応を明確化しやすくなります。
●具体的な実施方法
- 過去3〜5年分の販売実績・在庫回転率を分析、商品カテゴリー別に目標値を設定
- 同業他社の平均値・ベンチマークを参照し“達成可能かつ挑戦的”な水準に落とし込む
- SKU 単位でターゲット値を定義し、売れ筋/死に筋を明確化
●必要データ
売上数量・売上原価・在庫金額/数量・在庫回転率の月次推移、業界平均値、SKU マスタ(カテゴリー・リードタイム・粗利等)
●課題
- 過去データが欠損・粒度不足で比較が困難
- 新商品や季節品はベンチマークが少なく目標値が曖昧になりやすい
●ITツールの活用方法
BIダッシュボードで KPIを可視化し、SKU別シミュレーションの目標と実績差分をワンクリックで確認しましょう。
Step2.定期的なモニタリング
決算期のみの確認では、在庫滞留や需給変化を見逃しやすくなります。月次・週次など、頻度を上げて在庫回転率をモニタリングしましょう。
●具体的な実施方法
- 月次/週次で在庫回転率を自動計算し、アラート閾値を設定
- 決算期依存から“ルーチンモニタリング”へ移行し、需給変化を早期発見
●必要データ
最新の売上原価・在庫金額(リアルタイムまたは日次)、アラート設定用の目標回転率。
●課題
データ更新のタイムラグが大きいと、実態と数値が乖離し対策が後手になる。
●ITツールの活用方法
在庫管理システム+ERP連携を活用し、在庫の更新情報をメールやSlackに自動通知する設定にしておくことで、定期的なモニタリングを欠かさないようにできます。
Step3.不動在庫の可視化
滞留/不動在庫を可視化し、処分・消費
在庫回転率が低い商品を定期的に洗い出し、社内で一元管理します。動きの悪い在庫は早期に処分や値下げ販売などの対策を検討しましょう。
●具体的な実施方法
- 在庫回転率が閾値を下回るSKUを抽出
- 値下げ販売・セット販売・委託/返品交渉・廃棄の4段階で処分方針を決定
●必要データ
SKU別の最終出荷日・保管コスト・粗利率・処分コスト、需要予測。
●課題
処分判断の社内合意形成が遅れ、滞留在庫が長期化。
●ITツールの活用方法
スマートマットなど重量センサで滞留在庫を可視化し、ABC解析レポーを作成します。
Step4.リードタイム短縮
補充の迅速化で在庫回転率を上げる
在庫滞留には販売・消費ができないだけでなく、「補充に時間がかかる」ことも一因です。特に売れ筋商品の在庫切れが頻発すると、販売機会を逃し、全体の回転率が低下。発注から納品までのリードタイムを見直し、「必要なタイミングで、必要な量だけ」の在庫を確保する体制を築きましょう。
●具体的な実施方法
- 発注承認から納品プロセスを分解し、ボトルネック特定
- サプライヤーとの連携強化( VMI/EDI※3導入)で補充の効率化・自動化
- ロットサイズ・納品頻度の見直し
●必要データ
発注頻度と平均納品日数、発注リードタイム実績、SKU別補充パターン・仕掛品の滞留状況
●課題
サプライヤー側の調整余地が小さい場合、交渉力や信頼関係の構築がカギとなる。またEDI導入には、一定の初期投資と業務改革が必要
●ITツールの活用方法
発注業務をワークフローで標準化・電子化。またAI需要予測を活用する場合は、在庫補充を自動最適化することで、ムダな在庫を排除することが可能。
※3:EDIとは企業間における注文書・納品書・請求書・支払い通知など発注業務に関わる取引情報をデジタルデータとしてやり取りする仕組みのこと。
在庫回転率改善をアシストするITツール
ITツールで「数字を追うだけ」の状況から脱却
在庫回転率を定期的に算出しても、データ収集や判断が手作業のままでは改善サイクルが止まりがちです。
そこで役立つのが 重量IoTスマートマットクラウド。膨大な在庫確認作業フリーで現場の在庫量をリアルタイムで可視化し、発注や滞留在庫の是正まで一気通貫でサポートします。
SmartMat Cloudで回転率を改善|滞留・欠品を可視化&自動発注
重量IoTセンサで在庫の動きをリアルタイムに把握し、回転率を“可視化&改善”できるのが、スマートマットクラウドです。現場のあらゆるモノを見える化し、在庫管理・棚卸・発注を自動化します。
在庫の動きを見える化し、欠品・過剰のムダを削減
スマートマットクラウドは、IoT重量センサにより在庫の増減を自動検知し、滞留・欠品を可視化。回転率の“改善ポイント”をデータで明確にし、自動発注によって理想的な循環を実現します。在庫回転率を根本から改善できるIoTプロダクトとクラウドソフトを掛け合わせた在庫管理システムです。
遠隔からリアルタイムで実在庫数を確認
マットが重量変化を自動検知し、在庫数量をクラウドへ即時反映。これにより実地棚卸や手入力に費やしていた労力が不要になります。取得データは CSV で出力でき、Excel や BI ツール側で在庫回転率や在庫日数をすぐ算出可能です。
不動在庫の特定
スマートマットクラウドは在庫の動きを自動で見える化します。ボトルネックになっている不動在庫や過剰在庫、在庫切れの危険のある在庫を特定し、在庫回転率の改善に貢献します。
改善アクションの即時化
設定下限を割るとにアラートが届き、自動発注も。欠品・過剰在庫への対応が「後追い」から「先手」に変わり、発注点の見直しや棚配置変更などの施策をスピーディに実行できます。
在庫回転率の改善の成功事例
SGモータース株式会社様の改善事例
課題:部品在庫を手動で実地棚卸をしていたため、在庫差異が発生。また、欠品しないよう在庫に余裕を持たせて発注していたため、過剰在庫が常態化していました。
導入内容:回転率の良い部品在庫にスマートマットを導入
導入効果:スマートマットクラウド導入後は、約30%の在庫削減に成功。在庫回転率は0.28から0.82と大きく改善できました。
株式会社ISS山崎機械 水口工場様の改善事例
課題:在庫管理部門がないため、欠品・過剰在庫が頻発し、不動在庫の存在も把握できていませんでした。
導入内容:工具チップや清掃用品など多品種の消耗品をスマートマットで一括管理。データを基に発注タイミングを自動最適化。
導入効果:在庫管理・発注工数を月105時間削減。隠れた不動在庫を特定し適正在庫を維持できるようになりました。
この記事を書いた人

スマートマットクラウド メディア編集部
スマートマットクラウド メディア編集部です。業務効率化や業務の課題解決などをわかりやすく解説します!
【スマートマットクラウドとは?】
スマートマットの上にモノを置き続け、重さで数を数えるIoTサービスです。
ネジなどの部品、副資材・仕掛品・粉モノや液体の原材料まで、日々の在庫確認や棚卸・発注まで自動化します。