当社はプラスチック製品の製造企業で、大きく「機能成形品事業部」と「機能容器事業部」の2つに分かれています。
関東工場は機能容器事業部に所属し、プラスチック容器を中心に、食品・医薬品・工業薬品・電子材料などの液体輸送用容器を製造しています。
在庫管理に関しては、どの現場でも共通の悩みがあると思います。
たとえば、資材や備品がなくなったとき、「気づいた人が担当者に知らせる」というルールはどうしても漏れやすい…。「誰かがもう連絡したはず」と思い込んで欠品につながることもあります。
もし原材料が不足したら生産計画に支障が出ますし、在庫が急遽なくなった場合の手配にも余計なコストや時間がかかってしまうことに。
また、当工場は24時間稼働しているため、日勤・夜勤間の連携不足も課題でした。夜間に欠品が発生した場合、その情報が日勤の担当者に伝わらないまま忘れられてしまうケースも…。
さらに、在庫の保管場所が事務所から離れているため、毎日の目視確認が負担になっていました。特にクリーンルームでは、入室のたびに着替えなどの準備の時間が約5分必要です。わずか1分で終わる在庫確認のために、その都度、準備をするのは非効率だと感じていました。
4組3交替制で24時間稼働している積水成型工業 関東工場
毎日在庫を確認する運用をしていても、人間なので体調不良で休むこともありますし、どうしても万全ではありません。
そこで、属人化を解消するためにIoT技術を活用できないかと考えたのがきっかけです。
ちょうどその頃、私がプライベートでAmazonのAlexaにハマっていたので、「声で指示してIoTを使える時代、IoTに繋がる量りはないのか?」と検索したところ…。スマートマットクラウドを発見。
ただ、コピー用紙のためにコストをかけるのは厳しいという雰囲気もあって、一度は断念せざるを得ませんでした。
それから少し経った頃、大阪本社の情報管理グループがキヤノンマーケティングジャパン株式会社の展示会でスマートマットクラウドを見つけてきて、「こんなものがある」と各工場へ案内が回覧されました。
私たちは工場を運営する会社の情報管理グループとして、新しいIoTツールの情報収集を目的に展示会へ足を運んでいます。そこでスマートマットクラウドを知り、その『人が介在せずに在庫管理ができる仕組み』が、工場の担当者の負担軽減につながるのではないかと大いに期待。そのため、各工場にこのソリューションを案内することになりました。
私は事前にスマートマットクラウドを知っていたので「これはチャンスだ」と思い、情報管理グループの支援で関東工場にプレゼンしてもらいました。
工場長など興味を持ちそうなメンバーに集まってもらい、実際に私たちが使っている小さい部品やマスクなど色々な部材を試しに載せて、スマートマットクラウドを確認したところ、「これは使える」ということになり、スムーズに導入が進みましたね。
導入にあたっては、まず欠品による生産への支障を防ぐことが大きな目標でした。
夜勤と日勤の交代や休日を挟むことで情報伝達に漏れが生じても、スマートマットクラウドで自動的に在庫を計測・通知できれば欠品リスクを軽減できると予想。
さらに、不安から必要以上に物を抱え込みすぎる状況を改善し、余剰な在庫コストや保管スペースのムダを削減することも期待していました。
製品の梱包に使うPPバンドやビニール包装材といった包装資材だけでなく、製造工程で使用する伝票やラベル、検査工程で必要な手袋・マスクなどの備品、さらには事務所で使うコピー用紙やアルコール消毒液、ボックスティッシュといった事務用品も対象となっています。
また、原材料として着色ペレットやパージ剤など重量のあるものもスマートマットクラウドで管理し、リアルタイムの在庫状況を把握しています。
袋に入っていて中身が見えない着色ペレットも、重量計測で在庫状況をリアルタイム把握
まず大きいのは、自動で在庫を測定し、残量が一定以下になるとメールで通知がくる点です。
担当者が毎回現場まで確認に行く必要がなくなり、欠品リスクがぐっと下がりました。「誰かが知らせる」という属人的なやり方より格段にミスが減ります。
また、クラウドでデータを管理することで、担当者以外もブラウザで在庫状況を確認できます。担当者が休んでいてもすぐ対応できるので、情報共有が円滑になりました。
在庫を持ちすぎるリスクという点においても効果がありました。リアルタイムで数が分かれば、欠品を恐れて多めに発注する必要がありません。余剰在庫が減り、保管スペースにもゆとりが生まれます。結果としてコスト削減や作業効率アップに繋がっています。
また、特にクリーンルーム内は着替えや衛生管理の手間が大きいため、在庫確認を頻繁に行うことが難しく、クリーンルーム内で用いる手袋やマスク、パージ剤などが在庫切れを起こしてもすぐに対応できないリスクもありました。
スマートマットクラウドの導入後は、担当者がわざわざクリーンルーム内に足を運ばなくても残量の確認が可能に。さらに、自動通知機能によって「夜間に想定外の消費があった」といった場合でも、メールやクラウド画面を通じて即座に把握できるため、着替えの手間を減らしつつ欠品リスクを大幅に下げることに成功しています。
こうしたクリーンルーム特有の時間的・衛生的ロスを削減できた点は、スマートマットクラウド導入後の大きなメリットの一つです。
備品や資材を置く場所を「スマートマットの上」と定位置化することで、散らかりがちだった保管スペースが見違えるほどきれいになりました。
乱雑に置かれていた在庫も減り、足の踏み場に困ることもなくなり、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の観点でも大変な効果を感じています。
また、在庫切れになりそうなタイミングでメール通知を受け取り、クラウドで確認するだけで発注できるようになったことも大きいです。いちいち現場を見に行く手間も削減され、本当に助かっています。
定位置化された備品や資材たち。5Sの観点でも大きな効果が
現場の担当者にとって、在庫管理は決して単純な業務ではありません。適切な管理には長年の経験や勘が求められ、それが上長との認識のギャップにつながることも…。
特に、在庫の最適な閾値を見極めるには、経験をもとに判断する必要がありました。しかし、スマートマットクラウドを導入したことで、そうした属人的な判断が不要になり、誰でも適切に管理できる環境が整いました。
さらに、在庫が少なくなると自動で通知が届くため、定期的な在庫確認のために現場を見に行く必要もなくなりました。その結果、担当者は目視確認に追われることなく、より専門性の高い業務や付加価値を生む作業に集中できています。
スマートマットクラウドで管理されたPPバンド。製品の梱包に使われる(写真奥)
月末の棚卸の際には、在庫を数えるだけでも以前は2時間、そこから集計に1時間かかっていました。
導入後は、スマートマットクラウドのCSV出力機能を活用することで、わずか数分で在庫数量をまとめられるようになり、作業時間の削減に繋がっています。
さらに、消耗品や資材の欠品もほとんど起こらなくなったため、急な手配や生産計画の調整などに追われることが大きく減少し、追加コストや対応に要する時間も大幅に圧縮されました。
また、自動発注の仕組みも構築。RPAのプログラムを組んで、在庫が少なくなったら自動発注されるようになりました。以前は4人がかりで約1時間かけて注文作業を行っていたので、1時間×4人×20日、トータルで月80時間かかっていた発注作業の労力もほとんどなくなりました。
こうした時間の短縮やミスの低減により、現場が本来行うべき作業や改善活動により多くのリソースを振り向けられるようになった点は、導入効果を示す大きな成果といえます。
将来的にはAIとの連携やデジタル化をより深化させ、在庫予測や原材料の最適管理につなげたいです。まずは紙ベースの記録をどのようにデジタル化し、スマートマットのデータをうまく活用していくか。そこが次の課題ですね。
危険物管理やコンプライアンス面での改善も検討しています。危険物や少量危険物に該当するスプレー缶などを必要以上に持ちすぎると、消防法で問題になることがあります。
そこでスマートマットクラウドを活用し、在庫を超過しないよう管理を開始。ほかの工場でも薬品管理に活用しているところがありますので、全社的に広がれば良いなと思っています。
動きの激しい備品を載せようとすると、専用のカートを増やす必要があったり、置き場所の確保が難しかったりします。
工場内ではどうしてもスペースに限りがあるので、そのあたりの環境が整えばもっと活用の幅が広がるのではないでしょうか。
関東工場で成功事例を積み上げ、自動発注まで含めてノウハウを確立したうえで、国内5工場へ横展開したいと思っています。
さらに、積水化学グループ全体へ広げることで、共通の課題を解決できる可能性があると期待しています。
小さな部品や電池などを管理するために、もっとコンパクトなサイズのマットがあるとうれしいですね。
総務係では文房具や電池を大量に使うので、引き出しに入るような小型版があれば管理しやすいと思います。